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第十二章:冬の交配


 性病女と初体験を済まし、幼なじみと風呂場で身体を重ね、女子高生の尻を犯し……
 この1週間、本当にハードな日常を過ごした。
 セレンにいたってはあの日、風呂場で言った“揉むだけ”では終わらず、結局、俺たちはクタクタになりながら熱い夜を過ごした。
 しかもその日だけではない。昨日までの数日間、毎晩セレンと交わり俺の身体はボロボロになっていた。性的な意味で。
 さらに昨晩、着替え中の木刀女の部屋に間違えて入ってしまい、木刀でボッコボコにされた。まさかセレンと隣の部屋だったなんて夢にも思わなかった。全身が筋肉痛のような痛みで、肉体的にもボロボロだ。
 だからこそ今日はゆっくりと休みたい。贅沢を言うなれば、せめて夕方まで寝ていたい。
 真っ暗だった世界から薄目を開けると天井が目に入った。
 窓の方を見るとカーテンの隙間から陽射しが入ってきていた、眩しい。

 もう朝か……よし、二度寝をしよう。
 目を閉じ、再び睡眠体勢に入る。



 ――プルルッ、プルルルッ、プルルルッ
 電話の音だ。電話鳴ってますよー、由紀さーん。

 ――プルルルッ、プルルルッ、プルルルッ
 誰か電話出てくれ。俺は疲れてるんだ、寝させてくれ。

 ――プルルルッ、プルルルッ、プルルルッ

 希望も虚しく、電話は一向に鳴り止む気配も、誰かが出る様子も無い。というか何かがおかしい、俺の部屋から着信音が聞こえるんだが。
 友達0人の俺には必要のないもの、と携帯は持っていないはず――
 そういえば、と記憶を思い起こす。
「貰ったバッグの中に携帯があったような」
 慌ててベッドから跳ね起き、音のする方へと向かった。
 机の上のバッグから“GUMP”と小さく書かれた黒基調の携帯を取り出した。

 ぶるぶると振動しながら着信音は鳴り続けている。画面には見慣れない番号。
 そりゃ見慣れないも何も、貰ってから触るのも初めてだから登録なんてしてるはずもないんだが、俺の安眠を妨げた罪は大きいぞ。
 通話ボタンを押し、耳に当てると聞き覚えのある声が耳に届いた。

「おはよう、秋穂です」
 ――ピッ
 その名前を聞いて即座に電話を切った。
 朝からあの人の声を聞くことになるなんて、今日はいい事がなさそうだ。
 よし気を取り直して寝よう、そうしよう。

 ――プルルルッ、プルルルッ、プルルルッ
また掛かってきた。当然か。

 一呼吸置いて渋々通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
「ちょ、いきなり切らないでよ」
「すみません、秋穂さん。今、忙しくて」
「忙しいって君、さっきまでベッドの中だったじゃない」
 何故分かったし、貴方はエスパーか何かですか。それとも魔美さんか伊東さんの類ですか。

「よく分かりましたね、盗撮ですか?」
「盗撮なんて人聞きが悪いね。君の行動はこちらからは筒抜けなんだ、監視と言って欲しい」
 おいおい、本当に見てるのか? ネタだよな?
 電話を耳に当てながらキョロキョロと四方八方を見回しカメラがないか探す。
 しかしそれらしいものは見当たらない。

「カメラなんて見つからないよ、衛星からの映像で見てるんだから」
「えいせい?」
 カーテンと窓を開け、空を見上げた。肉眼で人工衛星が見えるはずがないのだが。
「上で見てるんですか?」
「当たり前だけど人工衛星から見てる訳じゃないからね。ボクは今は研究所のモニター室にいる。君が持っているその携帯電話は君以外で言うと内閣総理大臣、各局の局長など政府の一部の人間――いわゆるVIPな人間しか所持することの出来ない特別な携帯でね、搭載されている高精度GPS機能と人工衛星からの映像の2つの情報を研究所に送信しているんだよ」
 そんな凄い携帯を貰っていたのか、ラッキー! って待てよ。

「あの、秋穂さんそれって……俺にプライバシー無いってことですよね?」
 まぁそうだね、と俺の問いに軽く言葉を濁した。
「だが君の肩、いやペニスに我々人類の存亡が掛かっているのだからそれ位の我慢はして欲しい。それに今の待遇を考えれば大したことないはずだ」
 確かに今までの人生の悲惨さと比べればこんな好待遇はありえないことだ。それにミラさんにも見られている、と考えれば興奮材料にもなりえる。
「……わかりました。監視の件は我慢することにします」

「うん、君なら分かってくれると思ったよ。それで監視結果なんだけど昨晩の22:47、西園寺セレンとの通算6回目の性交時、中出しをせずに腹の上で出し、ティッシュで拭き取っただろ? 前から何度も言ってるよね、精子は貴重だって。原則、膣内に出してくれないと困るんだ。百歩譲って栄養補給と考え、口内発射は許すとするよ。だがしかし君が明日、急に何かの病で死ぬかもしれない。まだ一人も孕ませてない今、君に死なれては我ら人類は――」

 時間にしておよそ30分、長々とした説教が終わった。
 俺の、いや俺たちのプライバシーは本当にないんだなと実感した。
「――てことで気をつけるように。あぁ、それと君、ファイル全然チェックしてないでしょ?」
 ファイルってあの、女の子のプロフィールが書いてあるやつか。そういえばあの日、女の子を指名して以来見ていない。
「全然、見てないですね」
「やっぱり。じゃ、明日が誕生日の女の子がいるってことも知らない訳か。女の子の誕生日くらいチェックしとかないとだめだよ」
 誕生日? 一体誰の誕生日だろうか。
 声を掛ける間もなく通話は切れた。電話するのも突然、切るのも突然か。
 仕方ない、あとで誰の誕生日か見ておくか。
 色んな意味で目が覚めてしまったのでいつも通り、コーヒーでも飲むことにした。


 居間でコーヒーを飲んでいると訪問者を告げるチャイムが鳴った。
 玄関へと向かうとこちらが開ける前に扉が開いた。

「こんにちわー! まといさんだよー!」
 左手にビニール袋を提げた栗色髪ショートカットの白衣姿のお姉さんだった。
 顔が少し赤い。どうやらお酒を飲んでいるようだった。

「ど、どなたでしょうか?」
 日曜なら訪問員だと思うが今日はまだ金曜日。
 この白衣の女性は誰なのだろうか。
「あっれぇ? 聞いてないのー? おっかしいな……ま、いっか」
 焦点の定まっていない視線とおぼつかない足取りで身体を少し横に揺らしている。

「手続きが早く済んだとかで、2日早い配属になりやした藍田纏でぇす、よろしくっ!」
 右手を額に当て、満面の笑みで敬礼をした。なんだか凄くテンションの高い人だ。
 個性の強い女性ばかりだと思っていたが意外にもこれは今までになかったタイプだ。

 視線をチラリと俺に移して指差した。
「あ、もしかして君がウチを指名してくれた子? なかなか可愛い顔してんじゃなーい。今、流行りの草食系男子ってやつぅ?」
「いや流行ってるかどうかはわからないですけど、よろしくお願いします」
 軽くお辞儀をするとトロンとした目で近づき、息を吹き掛けてきた。酒臭い。
「いいじゃない、いいじゃないー。ずっとガツガツした野郎ばっか相手にしてきたからさー」
 俺の両手を手に取り上下にぶんぶんと振った。
 すると話し声を聞きつけたのか、2階から2、3人下りてきた。
 その中の1人が驚いたような声を上げ、纏と名乗った女性の元へと駆け寄った。

「姉上?! 姉上なのか?」
 それは胸にサラシを巻き、赤い袴を穿いた格好の女性――どうみても木刀女だった。
 そういえば名字が同じ藍田。2人は姉妹だったのか、なぜ気づかなかった俺。
「おー! みやびー! おっひさー! 1年ぶりだっけ?」
「3年ぶりです姉上。どうして姉上がここに? 私に会いに来てくれたんですか?」
「あれ、そんなになるっけ? 月日の経つのは早いものねー。あのね、そこの彼がウチを指名してくれたんよー。これからよろしくね、雅」

『ねー、少年?』と俺の肩に腕を回し、肩組みをしてきた。
 すると木刀女は何か癪に障ったのか、持っていた木刀を俺に突きつけ、物凄い形相で睨んだ。
「なにィ?! このハレンチ男め! 貴様ァ……私だけではなく姉上にまで不埒な事をする気か!」
 持っていた木刀を振り上げ……
「ちょ、ま、待って」
 俺の頭上に目がけて勢いよく振り下ろした。
(やばい、やられる……!)
 咄嗟に歯を食いしばり、目をつぶる。


 バシッ! と鈍い音がした。しかし俺の身体には触れられていない。

 目を開け、纏さんの方を見ると俺を守るかのように左腕で木刀を受け止めていた。
 床にはビニール袋に入っていたお酒が散らばっていた。

 今まで酔っていたのが嘘かのように木刀を左へ受け流し、鋭い目つきで妹を睨み怒号した。
「雅、あんた何も変わってないわね。そんな子供みたいなこと言ってるの、あんただけじゃないの? セックスするためのプログラムなんだから意地張ってどうするの? その様子じゃ、まだ処女でしょ?」
 姉のあまりの怒りっぷりに驚きと動揺からか木刀女は顔を真っ赤にし、走り去った。
 後ろで見ていたセレンと日虎さんたちが後を追う。


「ふぅ」
 彼女は軽く溜息をついて床に散らばった缶を拾い始めた。
「ごめんねぇ、玄関で姉妹ゲンカみたいになっちゃって」
 俺の方を見て申し訳なさそうに苦笑を漏らした。
「いえ、大丈夫です。それより……」
 彼女の赤くなった腕を見て頭を下げた。
「すみません」
 間違いとはいえ、木刀女の着替えを覗いた俺が悪い。
 そんな事があったんだ、お姉さんにも同じことをするだろうと誤解を与えてしまったのは事実だし、破廉恥と言われるのも無理はない。
 俺が殴られるべきだった。

「大丈夫だから顔をあげて」
 顔をほころばせ、にっこり笑いながら頭をくしゃくしゃと撫でてきた。
「いや、でも……」

「あ、そうだ! もう、お酒飲める歳なんでしょ? そんなに謝りたいなら罰としてお姉さんに一杯付き合いなさい!」
 もちろん一杯じゃ済まさないけどね、と拾い終わった酒が詰まった袋を持ち上げニシシと笑った。
「お酒ですか? 俺、あんまり強くないですけど……頑張ります」
「うんうん、頑張って! あ、そうだ。あたしの部屋ってどこなんだろ」
「たぶん2階のどこかだと思いますけど、とりあえず俺の部屋来ますか?」
「あ、ほんと? じゃ、お言葉に甘えちゃおっかな」

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