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第五章:天使のように


 家の中に入ると、玄関の前には今日からここで一緒に住むであろう人たちが集まっていた。
 胸にサラシを巻いたまるで武士のような背の高い女性に褐色の肌をしたワイルドな女性、それにあれはまさか女子高生? なぜこんな所にいるんだ。法律的には大丈夫なのだろうか。
 あ、さっきの金髪ツインテもいるな。またこっちを睨んでる。あとで誤解を解かないとな。

 俺が女の子たちの方に視線をあちこちと動かしていると、真ん中にいたほんわかした感じの女性が笑顔でお辞儀をしてきた。
「はじめてお目にかかります。うちは倉見どす。よろしゅうお頼み申しますな」

 お。なんか訛りがあっていいな。新鮮だ。これはどこの方言だろうか、京都か?
 上品さを感じる喋りに自然に顔がほころんだ。礼儀正しくて綺麗な人だしきっと育ちがいいんだろうなぁ。俺の童貞はこういう人に捧げたいもんだ。
 その挨拶に答えたくて俺も精一杯の笑顔で彼女を含めた女性陣に自己紹介をした。

「あらあら、さすが紫亜(シア)さん。私が皆の自己紹介するまでもなかったわねありがとう」
 ミラさんが目の前の京美人に向かって笑顔でそう言った。そうか倉見さんの下の名前は紫亜っていうのか。可憐な名前で倉見さんにぴったりの名前だな。

 倉見さんはいえいえと首を振るとそれではこちらも順番に自己紹介しましょうかと取り仕切ってくれた。するとでは私が次に名を名乗ろう、と髪を後ろで束ねた武士のような女性が一歩前に出てきた。おいおい。なんか木刀持ってるぞ。
「私は藍田道場の跡取り、藍田雅(アイダ ミヤビ)だ」
 そう名前だけ言うと腰につけていた木刀を取り出し、それを勢いよく振り下ろし俺に突き付けた。
「父上の言いつけとはいえ軟弱者に簡単に体を許すつもりはない。覚えておけ」

 驚いて後退りしてしまった。
 藍田道場ってどこだよ。なんて突っ込まなくてよかった。殺されるところだった。

 「まぁまぁ、落ち着いて」と倉見さんがなだめると「すまない」と軽く一礼して一歩下がった。
 倉見さんありがとう優しいんだね。君はまるで天使だ。

 しかしまぁここに来て早くも女性二人に睨まれてしまった。俺が一体全体何をしたっていうんだ。ここの女性はみんなこんなに我が強いのか? 軽く女性不信になりそうな勢いだ。
 やはり童貞を捨てるには一筋縄では行かないのか。
 じゃ次はオレの番だなと今度はタンクトップに短パン姿の男らしい女性が前に出てきた。この人も俺に一言物申す気なのだろうか。もうやめてくれ俺の心はそろそろ限界だ。

 だがそんな俺の怯えた表情とは対照的な満面の笑みで健康的な褐色の肌に引き締まった体の彼女は
「よう少年。オレの名前は日虎 真琴(ヒトラ マコト)。
 物心ついた時から軍隊に居たんでまだ処女だが、いつでも部屋に来て貰ってやってくれ」
 と堂々といい放った。なにこの人カッコいい。惚れそう。あたしを抱いてと思わず言いそうになった。俺の処女も捧げたいぐらい男らしいじゃないか。

 でも初めての相手にはなんか違う気がする。俺がセックスに慣れたらこの人としたいな。

 次はあの子の番かな、と先ほどから気になっていた明らかに未成年な女の子を見た。どっからどうみても女子高生だ。すると俺の熱い視線に気づいたのか彼女は
「西院丹……睦月です……」
 と蚊の鳴くような声で名前だけ言い金髪ツインテの後ろに隠れてしまった。

 それをみたミラさんが彼女に駆け寄り、彼女のことは私が紹介するわね。付け加えたいこともあるしと話し始めた。

 彼女の名前は西院丹 睦月(サイニ ムツキ)。高校生だが18歳なので今回の同居への参加は法律的には何の問題もないのだが4月に卒業するまでの残り3ヶ月間は性交をしないで欲しいとのことだった。
 罰則は特にないそうだが道徳的に考えてだとか。
 まぁ無理矢理にする気はないしな。それになんかあの子さっきから俺を見て怯えてるみたいだし。純粋な子なのかな?

 彼女の紹介が終わり、後ろにいた数人の女の子たちが紹介をした後、何を思ったのか「セレンちゃん何か彼に言っておきたいことある?」と金髪ツインテに話しかけた。
 ちょ、ミラさんやめてくれ。もうその子を刺激しないでくれよ。もう俺のライフは0なんだよ、やめてくれよぉ!

 しかし金髪ツインテは「特にない」とだけいうと後ろを向いてしまった。あれ? もう怒ってないのか? それとも俺の顔すら見たくないってことなのか。
 これは本当に早く誤解を解かなくては生活しづらくなりそうだ。

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