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第三章:Yes or No


 これから一切の自慰行為の禁止という訳のわからない決まりを、今日始めて会ったばかりの人に突きつけられてしまった。このつまらない俺の人生から毎日の日課までが奪われてしまったらこの先の俺の人生はどうなってしまうのだろうか。
 そう考えたら今まで怒張していたペニスが萎えきってしまった。

 するとそれを見た秋穂さんが「その代わり――」と契約書のような紙を差し出してきた。
「なんですか、これ」
「今日は検査の他に今後の生活についても話したいとミラさんから聞いていませんか」
 そういえばそんなことを言われた気もするがあの時は妄想に夢中で気にしていなかった。

 とりあえず読んでみてくださいと言われたのでしぶしぶ読んでみるとこんな事が書かれていた。
 契約書に同意すると今後、一切の労働をせずとも生活を保障してくれること、さらには政府発行の専用携帯電話で電子マネーを使い好きなものをなんでも購入していいことなどネオニートの俺でなくとも嬉しい夢のような事だらけだった。
 そしてその文章の一つに最も惹きつけられた。

“対象の自慰行為を禁止する代わりに政府が手配した人物との性行為を容認するものとする”

 あまりに現実離れしたその項目に目を疑いその文章に指を差しながら秋穂さんに尋ねると
「うん、それはつまり政府が用意した女性と性行為を好きな時に好きなだけしていいという意味だよ」
 と童貞の妄想を掻き立てることを言った後、「あぁもちろん――」と付け加え丁寧に契約内容を説明してくれた。

 秋穂さんの説明を簡単に要約するとつまりこうだ。
 契約書に同意すると新しい住まいを与えられ、政府が用意した数十人の女性と同居生活をすることになるらしい。その女性たちと好きな時に好きなだけセックスをしてもいい。
 さらには同居人を俺が気に入らないと判断した場合、写真とプロフィールから選んだ女性と交換することができる“バイキングローテーションシステム”というものがあるらしい。
 そして自慰と同じく避妊行為も禁止だが、女性が妊娠した場合の子供の養育費や生活はすべて国の税金で賄われ保障されるという。
 なんとも素晴らしい条件なのだろうか。あまりの好条件に萎えたはずのペニスが阿修羅のごとく猛り勃った。秋穂さんにパンツを下ろされた下半身丸出しのままで。

 そんなやりとりをしてるとミラさんが戻ってきた。
「説明は終わった?」
「はい。説明は終わりました」

 2人が何か喋ってる間、俺は考えた。これほどの好条件を断るバカはおそらくいないが、もし断ったらどうなるのだろうか意を決して2人に尋ねてみた。
「これって契約書に同意しなかったらどうなるんですか?」
 すると二人は口を揃えてこう言った。
『――拘束されて半永遠的に精液を採取される』

 その瞬間、猛り勃っていた俺のペニスは即座に萎縮した。そうするとそれを見た2人は口を押さえ、冗談よと笑いながら説明してくれた。冗談キツいですよ、お二人とも。

 契約書に同意しなかった場合は週に5回、精液採取ルームと呼ばれる研究所の専用ルームに通い、そこで自慰行為を行ない精液をカップに入れる。
 カップと謝礼と称したお金を交換したらそのまま帰宅という形らしい。生活保障は特に何もなく謝礼を数万円もらえるだけだという。
「それでどうするの?」
 説明を聞いたあと2人に尋ねられたが、答えは質問をする前からすでに心に決めていた。これは童貞を捨てられるいい機会だし、なにより断る理由なんてない俺にとっては好都合な条件だ。
「もちろん同意しますよ。これからお世話になります」

 俺は契約書にサインした。

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