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第十五章:まっしろ


 暖かな日差しが柔らかく輝き、春の訪れを感じさせる四月。
 心地よい風を感じながら、俺は以前の出来事を改めて思い起こしていた。
 よくよく考えてみれば、やはり『彼女』の話は俄かに信じがたい事ばかりなのだ。
 政府の人間が俺を殺しにくるかもしれない、だとか言っていたが、本当は彼女がそういう組織に所属していて、俺の暗殺を企てているんじゃないか。
 それとも、俺がセックスをしたら困る理由が他にあるのかもしれない……。
 それなら尚更『彼女』の言うことは聞けない。
 よし、ということで――今日も今日とて日課を実行するぞ。

「今日は誰とセックスをしようか」
 考える人のポーズを取りながら考えるのは、いつの間にか日課にすらなっていた。
「幼馴染のセレンと? いや、高校を卒業したばかりの睦月ちゃんとの初セックス……それとも纏さんと一杯しながら、いっぱいシちゃうか! しかし、雅の調教も捨てがたい」
 一人一人の顔を思い浮かべながら、彼女たちとの情事を妄想した。
 口端から顎へと伝って流れ落ちた液体を手の甲で拭うが、このヨダレは際限なく溢れ出る。
「そろそろ日虎さんとセックスをするのもいいな。経験値が溜まるどころか、既に俺は魔王をデコピンで倒す伝説の勇者レベルまで到達しているはずだ」
 悩みに悩み抜いて、ようやく俺は答えを導き出した。
「そうだ、乱交をしよう!」

 どうして今までこの素晴らしい発想が思い浮かばなかったのだろうか。いや、とっくに思い付いていた。実践しなかっただけのこと。
「今日は女の子を全員呼んでの、ハーレムセックスをしようぞ!」
 俺は俺の使命を果たさなければならない。
 そう、今日は全員と一度にセックスして全員妊娠させるぞ!
「おい、みんな! 集まってくれ! 大事な話がある!」
 買い物に行こうとしていたセレンと昼間から飲みに行こうとしていた纏さんを呼び止め、朝っぱらからオナニーをしようとしていた睦月ちゃんに声を掛け、筋トレをしていた日虎さんの手を無理やり引っ張り、お花を摘んでいる最中の雅に平手打ちされながらも、俺は苦労して居間へとお気に入りの女の子……五人を呼び出した。
「これで役者は揃ったな」
「なーにが役者は揃ったな、よ。あんたまた変な事考えてるんじゃないでしょうね」
 胸回りで腕を組んだセレンは眉をひそめて、怪訝そうな反応を見せた。
 他の人はどんなリアクションをしているかと目を配ると、纏さんはいつ持ってきたのか分からない缶ビールをゴクゴクと飲み干し、ゲップをした。口に泡をつけて可愛い人だ。ゲップは置いといて。
 睦月ちゃんは真っ赤な顔でオロオロしていて、日虎さんはその近くでスクワット。
 雅は未だ頬を膨らませて怒っているようだった。なんという混沌とした光景だろうか。
「えっと、まぁ……」
 しかし、今日の俺は屈しない。俺にはヤるべき事があるからだ。

「落ち着けよセレン」
「落ち着いてられないわよ。今日はジャネルの冬の新作を買いに行こうと思ってたんだから」
「そんなの俺がいくらでも買ってや……ってそれグラハムアメリカのライバル会社じゃねぇか」
「う、うるさいわね。あんたに買ってもらったら意味がないのよ」
「なんでだよ! この携帯でいくらでも買ってやるって!」
 何でも好きなだけ買える魔法のような携帯を目の高さで掲げてアピールするが、セレンの機嫌は一向に良くならない。
 それどころか荒げていた声は、どんどん小さく、そして最後には聞こえなくなっていく。
「だって、あんたに……プレゼン……もにょもにょ……やつだから……もにょ」
「あぁん? あんだって? 聞こえねーよ。はっきり言ってくれ」
「う、う、う……」
「う? なんだよ」
「うるさい! もういいからさっさと私たちを集めた理由を話しなさいよ!」
「ちっ、わかったよ。それじゃ今日の任務を発表する」
 緊張した面持ちで伝えると一同、顔が面白いように変化していくが、誰も言葉が出ないようだ。いや、語弊があった。いい直そう、ただ一人を除いて言葉が出ないようだった。
 やはり、いの一番に食いついてきたのはセレン。
「ら、らっ、乱交ってあんた本気ぃ?」
「あぁ……本気だとも! それにそれだけじゃない」
「それだけじゃないって?」
「バッチリこの携帯で高画質ムービーを撮るぞ! 乱交だけでなく、ハメ撮りのおまけつきだ!」
 再度、目の高さで携帯を掲げるとバイブレーションと共に大音量で着信音が鳴り響いた。
『プルルルルルッ! プルルルルルッ! プルルルルッ!』
 セレンの怒号を遮断するほどの、けたたましい着信音が鳴り続ける。
「こんな時に誰だよ……」
 そんな俺の声に反応したのか、着信音は突然小音量になり、高性能携帯が早紀ちゃんの声で喋りだした。早紀ちゃん元気かな。
『アイオカオル様からお電話です。通話状態に致しますか?』
 今は酒池肉林への第一歩を踏み出す大事な時、秋穂さんには悪いが少し待ってもらおう。どうせ大した用事じゃないだろう。
「いや、電源をオフにしてくれ」
『かしこまりました』
 そう言うと携帯は沈黙状態へ。悪いな、秋穂さん。俺は今からまた一つ成長するんだ。

「ふぅ、静かになったな。んじゃ始めるか」
「ちょ、ちょっと。切っちゃって良かったの? 大事な話だったかもしれな――」
「俺は今が大事なの! それに、いつかこんな日が来ると思って買っていたものがあるんだよね……」
 セレンの声を遮った俺は右ポケットに入れていた、あるモノを取り出した。
 涅色をしたパッケージの中央に禍々しい髑髏と蛇が描かれたタバコサイズの箱。
 白い文字で『マンドラの箱』と書かれている。
「これなんだと思う?」
「なにそれ、まさかとは思うけど薬じゃないわよね」
「そのまさかだよ。ラブドラッグさ」
 睦月ちゃんへの誕生日プレゼントを買う時に一緒に買っていた合法ハーブ。
 まさか本当に使える時が来るなんて思いもしなかった。
「やめなさいよ、薬なんて! バカじゃないの!」
 箱を取り上げようと伸ばしたセレンの手を軽く手の甲で払う。
 何を興奮しているんだ。ただの媚薬じゃないか。
「合法だから安心しろよ。これでいつもより、気持ちよくなれるんだぞ」
 封を開けると甘い匂いが鼻腔を擽った。やたらとノリノリの纏さんからライターを受け取り、ハーブを炊くと葉っぱが焼ける独特の匂いがした。
「あ、あたしは、や、やらないからね!」
 震えた声で拒絶の意を表すセレンに言い聞かせるように静かに語りかける。
「そうだな、確かにお前は拒否出来るよ。ただな――」
「な、なによ」
「同居プログラム第五条、全ての女性は物事を強要された場合でも拒否することができる。
 しかし、同居プログラム入居時の各誓約書により、男性は無理矢理行為に及ぶ事が出来る……
 これが何を意味するか……分かるか?」
「し、知らないわよ」
「つまりレイプも合法ってことさ」
「ひっ!」
 怯えるセレンの両腕を掴んで壁に押し付け、唇を奪うと、顔を真っ赤にして動かなくなった。
 目からはポロポロと大粒の涙が流れ出ている。その瞬間、俺の中の何かが弾けた。
「いいねぇ……。たまんねぇよ、そのカオ」
 セレンの唇から口を離すと互いの口から唾液が糸を引いた。
 そのまま口を首筋へ持っていき、鎖骨から顎に向かって舌を這わせる。
「んンッ!」
 ビクリとセレンの身体が二度ほど痙攣した。
「……やっぱり早いな」
 マンドラの箱は炊き始めの速効性が売りのラブドラッグ。
 残念ながら『やらない』と言っても『もう始まっている』んだよ、セレン……。

「やめ、て……」
「身体はもっとやってくれって言ってるぞ」
 セレンの下半身へと手を伸ばし、折り曲げた中指でセレンの湿地帯を軽くなぞる。
 やはり濡れている。それも普段の濡れの数倍、まだキスしかしていないのにだ」
「身体は正直だな」
 その後は楽だった。全身の力が抜けて無抵抗になったセレンの服を脱がし、愛撫。
 それを見て興奮した睦月ちゃんの初モノを優しく頂き、射精。
 精液と睦月ちゃんの愛液でグチョグチョになった俺の肉棒を藍田姉妹に優しくダブルフェラで舐め取ってもらい、日虎さんへ優しく性行為のレクチャーをし、こちらも無事に初めてを頂き、昼下がりの狂宴は開始され――
 三十分も経つと、もう立派な酒池肉林になっていた。
 真昼間に、しかも居間で俺たちは体液を巻き散らしていた。
「ず、ずるいぞ。姉上だけではなく、私にも挿れろ」
「雅……お前はさっき挿れてもらっただろう。しばらく私の番だ」
「なに、言ってるんですヵ……はひっ、私、私がお兄さんと……するんです……」
「いやここは間を取って、オレが相手をさせてもらおう。まだ後背位というものを試していない」
 もう何回、いや何十回もセックスをしているはずの彼女たちだったが、われさきにとバックの姿勢でこちらを向いている。
「みっ、みんな……こんなのっておかしいよ。もうやめようよ……」
「セレン。やめよう、と言いつつお前はケツをこちらに向けている訳だが」
「ちがっ、これは、その……」
「こうして欲しいんだろ?」
 ズンッ! と腰を押し付けるとニュチャア……といやらしい音を立てて、肉棒がセレンの朱色の秘唇へと吸い込まれていく。
 グチュッ、グチュッ、グチュッ……パァン! パァン! パァッ!
「あァッッッ! あッ! あッ! もッと! もっと突いてェ!」
「オラ、オラッ! このツンデレお嬢様がよぉ!」
「あぐっ! んっ、んッ、はうっ、気持ちイイッ! おちんぽ気持ちいいよォ!」
「イくぞ! セレン、ナカで出すぞッ!」
「だし、だしてっ! オマンコ気持ち良くしてェ!」
「ウ、ウウッ! ウグ、ウグ、アウッ!」
 ビュルッッッ! ビュリュリュリュッ! ビュッ、ビュッ、ビュッ!
「あぁ……あ、ア、アァッ……気持ちいい……」
 一つまみ炊いてコレなら、たくさん使えばもっと気持ちよくなれるのだろうか。
 脳裏で『彼女』の声がこだまする。

「雑念を振り払え、俺!」
 箱に入っていた全てのハーブに火を付け、出て来た煙に顔を近づけた。
「スー……ハー……。スー……ハー……」
 煙を全て身体へ流し込むように深呼吸。
「ア、あ、エ、ぁ、阿……キ、キモチイ……あふッ、ふッ、ふッ」
 ジュパンッ! ジュパンッ!
 マーライオンも驚きの大洪水になった女の子たちの膣へと次々に腰を思い切り打ちつける。
「ア、ア、ア、イグ、イグ、イグイグイグイグイグイグ……イグ――」
 快楽と喪失感が入り乱れる中、絶頂とは違う何かが俺を襲った。
 体験したことはないが、直感的にわかるこれは、まさに逝くという感覚。
 目の前が真っ白にというけれど、その表現は間違っている。
 カラフルだった景色はモノクロになり、やがて視界が狭く暗くなり始めた。
「天井……?」
 身体の制御が利かない。俺は後ろへ倒れているのか。
 そうか、分かった気がする。
 腹上死――これが政府の望んだ俺の最期か。
 駆け寄る女の子たちの顔が見えない、声が聞こえない。
 何も聞こえない。怖い、怖い、怖い。
「痛っ……」
 何かが額に当たった。
「石……?」
 なんだ、石か……。
 目の前から光が、失われて……光……なんだこの青白い光は……。
 なんだか懐かしい光だ。
 薄れていく意識の中、『彼女』の声が繰り返し頭の中で反響する。
 あの時の『彼女』の忠告をまともに捉えていれば、こんな事にならなかったかもしれない。
 もし戻れるのなら、次は君の事を信じるよ。

「ごめんな」
 俺の意識はそこで途絶えた。

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〒 まさかの主人公死亡? 完結までもう少し。
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