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第二章:自慰ができない


 
 山を一つ越えたあたりで立派な建物が見えてきた。
 あれが例の管理局兼、研究所なのだろうか。
 きっと真っ白な白衣を着た美人研究員たちが大勢いることだろう。
 そんな妄想をしているうちに車が停車した。

「さぁ、着きました。ここからちょっと歩きます」
 近くに行くとこれまた豪壮な建物だった。広大な敷地にそびえる空まで伸びたその建造物はさながら摩天楼といったところだろうか。
「うわ、こりゃ大きいな」
 思わず感嘆の声がもれた。するとそれに答えるようにミラさんが言う。
「あれが日本精子特別管理局です。元々は政府の研究施設だったのですが、
 今回の事件で日本精子特別管理局になりました。そして隣接されたあの建物が
 少子化対策課研究所(Declining Birthrate Laboratory)略してDBLです」
 ミラさんが指差す先には目の前にある大きな建物とは対照的な小さな建物があった。
 俺は思わず肩を落とし、落胆の声をあげる。
「あれが……ですか?」

 俺の言葉に対してミラさんが笑って言った。
「そんなあからさまにガッカリしないでください。DBLの施設は地下にあるんです。つまり――」
 とミラさんは俺が手に持っていたメモを取り裏に簡単な図面を書いてくれた。その図面には日本精子特別管理局の真下に広がる巨大施設が簡略化されて書かれていた。

 百聞は一見にしかず、ということで施設内に入るとミラさんは俺の手をひきエレベータに乗せてくれた。研究所の入り口は普通のビルの受付といった感じだったがエレベータ降りるとそこはゲームやアニメでみるようないかにもな研究所らしい施設だった。
 想像していた通り、美人研究員たちが忙しく働いていた。黒パンストえろすぎだろ……。
 その中の一人がこちらに手を振った。まさかこれが本当の逆ナンパなのか、そうトラウマがよみがえりそうなときだった。ミラさんが手を振った女性に手を振り返した。
「彼女のこと紹介するわ。こっちに来て」

 ミラさんについて行くと小柄で胸が無くどこか幼さを残した少女のような人が頭を下げた。
「はじめまして、ボクは秋穂 薫(アイオ カオル)、この施設の副所長をしています。そして、今日の検査を担当させていただきます。よろしくね」
 そう言うと握手を求めてきた。
 ミラさんが担当でないのは少し残念でもあるけどボクっ子でロリも案外アリだなぁと思った。まぁ童貞だからなんでも来い精神なんだけどさ。
 検査に入る前に質問はないかと聞かれたので是非お姉さま方のスリーサイズをご教授願いたい、と思ったがそれは後でお願いするとしてずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。

「俺のペニスが今や地球上で唯一って言いましたけどほら、精子バンクってあるじゃないですか。そこに保管されてる精子でしばらくは保つんじゃ?」
 そう言うと二人は顔を見合わせたあと俺に視線を戻した。
「ええ。あるにはあったんだけど実は数日前に――」

 話によると表沙汰にはなっていないが数日前、日本と米国にあった全ての精子バンクが何者かに同時襲撃され、精液を入れていたガラス小瓶が全て割られたというのだ。
 それに加えて昨日の事件だ。隣国の生物兵器か何かではないか、とテレビで騒がれるのも納得がいくというものだ。
 顎に手を当て相槌をしながら答える。
「なるほど。それはつまり、このままでは人間は今いる人間だけで
 そのうち地球上には人間が消えるってことですか?」

 あの発言で未来だけではなく過去が変わった、とは言い難いが何か陰謀めいたものを感じた。俺が深刻そうな顔をしているとミラさんが「だから、」と言って俺の両肩に手を乗せた。
「あなたの精子が必要なの。さぁ、服を脱いで検査を始めるわよ」
 いきなり服を脱げと言われて俺は動揺した。

 俺はあの時バス停前でテントを張った股間をミラさんに見られ興奮した。
 つまり俺は人に見られると興奮してしまうことが分かってしまったんだ。見られた瞬間に硬直化して触られでもしたら未知の感触で絶頂に達してしまうかもしれない。
 昔買った雑誌の袋とじに書いてあった。“早い男は嫌われる”

 この美女2人に嫌われたくないと童貞心に思った。
 俺が固まっているとミラさんが何かに気づいた様子でごめんごめんと謝ってきた。
「私がいると脱ぎにくいよね。じゃあとは秋穂にまかせるから、ごゆっくり」
 ミラさんは俺が引き留める間もなく研究所から出て行った。
 いや違うんだよミラさん。そうじゃないんだ俺は――って待て。私がいると脱ぎにくいって秋穂さんも女性じゃん。秋穂さんが居ても脱ぎにくいわ。あ、やばい勃ってきた。
 そんな俺の心情を知ってか知らずか秋穂さんが俺のベルトに手を掛けカチャカチャと外し始めた。

「ちょ、秋穂さん。待ってください、自分で脱げます」
 俺がそう言うとまぁまぁ遠慮しないでと秋穂さんは俺のズボンとパンツを同時に下ろした。
 そして俺の半硬化状態の桃色のペニスが彼女の前に曝された。もうお嫁に行けない……そう思っていると耳を疑う言葉が聞こえた。


「ボクのペニスより大きい。いいな、羨ましいよ」
 その言葉に耳を疑い俺は聞き返した。

「あ、正確には昔のペニスだね。今は昨日の事件でなくなってしまったから」

 いや、え? あれ? 何かがおかしい。小柄で胸は無いけど可愛い声と容姿のどっからどうみても女性な彼女の口からとんでもない言葉が聞こえた気がした。いや、気のせいに違いない。そうだきっと気のせいだ。俺、疲れてるんだな。オナニーのしすぎで。
 俺がまたも固まっている間にメジャーでペニスを測っていた秋穂さんが突然大きな声であーっと声をあげた。
「ねぇ、君。ここに来る前オナニーしたでしょ?」
 不意にそんな質問をされて軽くパニックになった。
「え、いや、してないですよ」
 動揺を隠しながら返したがさすがは専門家、見抜かれていた。

「嘘つかないで。こっちには分かるんだから。いい? さっきも説明したけど精子は貴重なの。
 もう貴方の精子は貴方だけのモノじゃないのよ? ねぇ、わかる?」
 子供を諭すように俺と俺のペニスを交互に指差しながら秋穂さんが睨んできた。何がなんだか分からないまま俺はとりあえず「ごめんなさい」と謝った。
 それから秋穂さんはまたも驚くべき言葉を口にした。


「それじゃこれからは自慰行為禁止です」

 俺は一体どうなってしまうのだろうか。

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